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TSURUKEN's MONOSASHI
〜熱量〜
自分の好きなものを追求することで、自分自身を好きになれる—そう語るのは18歳で起業し、AIを活用したファッションサービス“LaMuse”を手がけるTSURUKENくん。幼い頃から自己表現に制約を感じながらも、そのモヤモヤを爆発させるようにファッションの世界へ飛び込んだ。お金やスキルがなくても、誰もが自由に創造できる世界を目指す彼の挑戦は、単なるビジネスではなく、自分らしく生きるための革命だった。その熱量と信念に迫る。
Q. 読者の皆様に自己紹介をお願いします!
AIを活用したファッションサービス”LaMuse”を開発している、TSURUKENこと鶴健一郎です。現在18歳で、高専の3年生です。さまざまな人のファッションを見ることが好きで、もっとたくさんの人が個性を表現できる場を作りたいと思い、起業しました。
自分の好きなものを追求することで、自分自身を好きになれる
Q. MONOSASHIの取材では、ゲストにお気に入りの洋服を着てきてもらうプチコーナーを実施していますが、今日はなぜこの衣装を選んだのですか?
今日のコーデのポイントは、この青いスタジャンです。実はこれ、起業の登記をした翌日に購入したものなんです。古着屋でたまたま見つけたのですが、シワもなく綺麗なままで、このスタジャンがなんだかまだ何者でもない自分自身に似ているなと、、。「何者でもない人たちが新しいことを始める」そんなタイミングにぴったりだと思って、思い切って買いました。今では特別な意味を持つ服になっています。

Q. ファッションに関わるお仕事をされているということでもう少し深掘りしたいのですが、身につけるものを選ぶ際、自分に似合うかどうかを気にしますか? それとも、好きなものを着るというスタイルですか?
僕にとっては、「好きなもの=似合うもの」なんです。というか結果的に好きなものと似合うものが一致していくんですよね。最初は特に深く考えず、好きなインフルエンサーのファッションを真似するところから始めました。でも、着ていくうちに好きなものの中でも「これは自分に合っているな」とか「こっちのほうがしっくりくるな」と直感的に分かるようになってくるんです。
ファッションに限らず、自分の好きなものを追求することで、自分自身を好きになれる気がします。だから、ファッションを通して自分を好きになる努力をしている感覚です。
お金やスキルがないから自己表現できないのはもったいない
Q. ファッションに対する並ならぬ想いを持ったTSURUKENくんが始めた”LaMuse”とはどんなサービスですか?
”LaMuse”は、誰でもファッションアイテムを作れるプラットフォームです。今までは、自分の服を作るためには大量の資金や技術力が必要でしたが、生成AIを活用することで、誰もが気軽に好きなデザインを作り、簡単に製造・販売まで行える仕組みを整えています。
さらに、パタンナーの仕事を効率化し服づくりを手軽にするAIツールの開発も進めています。最終的な目標は、クリエイターの可能性を解き放ちアパレル産業を民主化することです。
Q. クリエイターの可能性を解き放つ!なんだかワクワクします。TSURUKENくんはどうしてファッションで起業しようと思ったのですか?
きっかけは、友人の「ブランドを作りたいけど、お金も人脈もスキルもなくてできない」という言葉でした。
高専にデザインが得意な友人がいて、「こういうブランドを作りたい!」と話していたのですが、資金や人脈がないために諦めてしまいました。別の友人は、バイトで貯めた大金を使って、やっとブランドを始めることができたんです。でも、ブランドを続けるのは経済的に余裕がないとできないことで、、。
「お金やスキルがないから自己表現できないのは、もったいない。」そう思って、誰でも気軽にファッションを作れる環境を作ろうと決めました。
「本当の自分を出せない」ことへのモヤモヤの反動から
ファッションで自己表現が爆発した。
Q.そもそも、なぜ「自己表現」にこだわるのでしょうか?
僕自身、自己表現が制限される環境で育った経験があるからです。僕は、日本とミャンマーのミックスでそれぞれの文化を持つサードカルチャーキッズです。そのため、学校では「肌が黒いから」とからかわれたり、クリスチャンであることで宗教的な偏見を持たれたりすることもありました。
それもあって、小さい頃から周りと違うなと感じることが多く、周りから浮いてしまうことがよくありました。親が学校の先生だったから、家でも「こうあるべき」みたいな雰囲気が強くて、自分では意識していなかったけど、どこか窮屈さを感じていました。
家庭・学校・教会それぞれで求められる“理想の自分”を演じることによって、「本当の自分を出せない」ことへのモヤモヤが蓄積されていく感覚がありました。そのモヤモヤの反動から、ファッションで自己表現が爆発したんです。


Q. どうして自己表現の媒体として「ファッション」を選んだのですか?
ファッションは、言葉を使わずに自己表現できるからです。小3でサッカーを始めて、中2の時には「プロのフットサル選手になりたい!」と本気で思っていました。でも、親に止められてしまってその夢を諦めました。そのとき、何年も積み上げてきたものが一気に崩れた感覚になりました。何をすればいいのか分からなくなって、完全に抜け殻みたいになってしまって、将来のことを考えることも嫌になっていたんです。そこから「自分のやりたいことが周りによって制限されるストレス」がピークに達し、次に何をしようか考えたときに、もともと好きだったファッションに行き着いたんです。
誰かに依存しない熱量、
誰かの承認を得る必要がない熱量。
それが一番強い。
Q. TSURUKENくんはこれまでたくさんの決断をしてきたと思いますが、その際に「これだけは譲らない!」という軸、MONOSASHIはありますか?
何かを決めるときは、まず「熱量があるかどうか」を最優先にしていて、ロジックは後から考えるようにしています。自分の中に溜まった行き場のない熱量を発散できるものにしかベットしない。だからこそ、じっくり時間をかけて取り組むことも、最終的にはすべて「熱量」に行き着くんです。自分には特別な取り柄がないと思って生きているから、「これをやらないと死ぬ」 くらいの感覚で、常に動いています。

自分のやりたいことや自分の熱量を具体化したのが「挑戦」であり、もし熱量が尽きたら、そこでやめてもいい。続けるかどうかも、すべては自分の熱量次第なんです。誰かに依存しない熱量、誰かの承認を得る必要がない熱量。それが一番強い。
Q. 幼少期は環境に合わせて理想の自分を演じていたというお話しがありましたが、それが「誰かに依存しない熱量」へと変わった決定的な瞬間は何だったのですか?
環境に合わせるために自分を偽ることができなくなったとき、「他者への依存」ではなく、「自分自身が本当にやりたいことへの純粋な熱量」が、自分を動かす原動力になりました。LaMuseを立ち上げたことで、自分の中にあるその熱量を信じて、この春に今通っている高専を退学することを決意しました。高専を辞めることで周囲の理解や安定した将来の選択肢を失いましたが、その経験がむしろ、自分の中にある熱量をより大切にしたいという気持ちを育んでくれました。
もちろん、この先も熱量が生まれたことで何かを失うこともあると思います。でも、それすら犠牲にできるのは、今ここに確かな熱量があるから。
MONOSASHI編集長 / 松井瞳

interviewer :Mashiro Takayanagi
editor :Hitomi Matsui , Mashiro Takayanagi
photographer : Uta Endo
creative designer : Kohyoh Hayashi
character designer : Rei Kanechiku
location : Shibuya