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MONOSASHI file20

Fumitaka Cho’s MONOSASHI

学び続ける

MONOSASHI file20は長史隆さん。大学で国際関係史の授業を行う教員でありながら、自身のロールモデルは指揮者の小澤征爾だと話す長さん。意欲のある学生から人気を集める長さんは「教える」ことをどのように考えているのか。今回は長さんだけのMONOSASHIについて教えてもらいました。

Q. 読者の皆様に自己紹介をお願いします!

 

長史隆と申します。職業は、大学教員、学者、研究者です。国際関係の歴史が専門ですが、大学の授業ではそれに加えてジェンダー・人種・格差などをめぐる現代社会の諸問題についても扱っています。

 

Q. MONOSASHIの取材では、ゲストにお気に入りの洋服を着てきてもらうプチコーナーを実施していますが、今日はなぜこの衣装を選んだのですか?

 

お気に入りファッションはシャツとジャケット。このジャケットは身体にフィットしていて気に入っています。2011年ぐらいに買ったものなので、もう10年は超えていますね。物は、ボロボロになるまでずっと同じものを使っています。先日も、10年以上着たコートをとうとう買い換えました。シャツは仕事柄ある程度きちんとしないといけませんが、学生さんと対等で仲間のような関係性でいたいので、あまり硬くならないようにシャツも柄が入ったものを選ぶことが多いです。自分の身体に合うもの、そしてきちんとしつつも少し遊び心のあるものを身につけていたいです。

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一方的に僕が教えるんじゃないよ、

僕も学びたいからいろいろ教えてくれよ

 

Q. 早速ですが、長さんだけのモノサシについて教えてください。

 

僕のモノサシは「学び続けること」。自分に対してそうありたいと思うことはもちろん、人に対しても、学び続けている人が好きだなと僕は思います。学び続けるというのは、立場とか、仕事とか、年齢とか関係なく、新しいことを吸収したり、新しい考え方を育んだりしているかどうか。極端にいうと、明日は別の自分になっているかどうかだと思います。明日とまではいかなくても、1年後、5年後には今とはかなり違う事柄や世界が見えているというのが理想ですよね。

 

Q. 長さんは普段から大学の教員をされていますが、教えることに対してはどんなふうに考えているのでしょうか。

 

僕は、歳を重ねることがすごく怖いんです。歳を重ねて、ベテランになるとどうしても「自分は色々なことを知っているから教えてあげるよ」というふうに、学生に接してしまう人が多いんです。だけど、僕はそれに抗いたいなと思っています。齢を重ねても、大学教授としてそれなりに評価されるようになったとしても、それまでの考えや価値観を問い直していく。明日、明後日、1年後、5年後と常に自分を更新して、新しい考え方をしているという自分でありたいです。

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Q. そのモノサシが構築されたきっかけはありますか?

 

大学で教え始めたというのが、ターニングポイントだったと思います。教え始めてから、全然違う世界が見えるんだっていうことを、学生さんたちが教えてくれました。例えば、ジェンダーというトピックについて、僕は元々はそんなに関心がなかったけれど、初めて授業で取り上げた時に、学生さんたちが目を輝かせながら議論をしてくれました。この子たちは僕が知らないことをたくさん知っていて、感じていて、考えている。その様子を見て僕もジェンダーの重要性に気づき、授業でも取り上げるうちに自分もどんどん学んでいく。そうすると、教え始めて3年経った頃にはもう全く違う自分になっているんです。いろんな学生さんたちと話をする中で、自分の考えを更新して、お互いに変化していく。一方的に僕が教えるんじゃないよ、僕も学びたいからいろいろ教えてくれよっていう姿勢でやっていくと、学生さんも面白いと思って、積極的に取り組んでくれるみたいです。

 

Q. そのような姿勢の先生はあまり多くないと思います。長さんが考える「学び」とは、積み上げていくというより、壊しては入れ替えていくイメージですか。

 

そうです。最初に僕の自己紹介で「学者」と言ったのですが、学ぶ者と書いて学者じゃないですか。だけど、その「学ぶ」ということは、本を読んで知識をつけることではなくて、自分の考えを壊したり、新しいものに触れて更新したり、変わっていくということなんだと思うんです。そういう大事なことを教えてくれたのは学生さんたちなので、彼らには本当に感謝してます。それから、こういう考え方をするようになったのは、指揮者の小澤征爾の影響が一番大きいと思います。

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心臓は動いてても「こころ」が動いていなかったら、

それは生きてると言わない

 

Q. 指揮者ですか!学者である長さんから指揮者の名前が挙がるとは驚きです。どのようにして小澤征爾さんに影響を受けたのですか。

 

小澤征爾の指揮を実際に見たのは一度しかないのですが、彼が書いた本や関連する本をたくさん読んで影響を受けました。彼は、若い頃からすごく成功して「世界のオザワ」と呼ばれていたにもかかわらず、ものすごい勉強家で、ずっとそれを貫き通しました。まだ知らないことがある、まだやってない曲がある、という風に常に学び続けているんです。

 

さらに、彼も若い人に「教える」ということをずっとやっていたんです。若い音楽家から見たら小澤征爾は「巨匠」なわけですが、彼のドキュメンタリーを見ていると「俺が教えてあげるからこの通りやれ」とか「俺について来い」というやり方ではない。一緒に卓球したり、遊んだり、冗談言ったりしながら一緒に音楽を作っているんです。若い人から吸収しながら自分もそこで成長している。そんな鮮烈な印象を受けました。全人的な学びの大切さというのは、小澤征爾がいなかったら分からなかったでしょうね。やはり、僕にとっての一番のロールモデルは小澤征爾だし、誰にとってもロールモデルというのは大切でしょう

 

Q. 「学ぶ」と「教える」という点で、絶対的なロールモデルがいるんですね。小澤さんは長さんにとってどのような存在ですか。

 

学び続けるためには「こころ」が動いていないと駄目なんです。偉くなって、年を取ってくると、どんどん心が動かなくなっていく。それは死んだことと同じだと思います。心臓は動いてても「こころ」が動いていなかったら、それは生きてるとは言わない。だけど小澤征爾を見ていると、年を取ってもそうならない人がいるんだって思うことができます。何歳になってもみずみずしい心を持って、新しいことを学び、若い人とも学び合い続けることができるんじゃないかという一つの希望を彼は見せてくれてる。だから、僕の人生は小澤征爾のようにやっていこうっていうだけで、単純なものなんです。北極星のような動かない目標がそこにあるから、何があっても自分はそこに向かっていこう、ということです。

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教え始めたときに、このために生まれてきたんだなと思った

 

Q. 長さんにはいつでも見失わないロールモデルがいるんですね。長さんにとって、教える事のモチベーションはどこから湧いてくるのですか。

 

一人で完結するのではなく、与え合いながら他の人と共に生きていく、というのが「社会」の基礎でしょう。そういうことに学生さんが気づいてくれてる瞬間がとても嬉しいです。小学校から大学まで、学校の授業というのは教員が生徒に教えるという一方通行のものがほとんどです。僕の授業はそうではなくて、事前に共通の文献を読んできたうえでのグループディスカッションがメインです。これまでに受けたことのないそういう授業を通して、人と意見を共有し合って考えることが面白いんだと気づいてくれる学生さんが少なくないんです。学生さんが「他者と共に生きていくことの意味」について分かってくれると嬉しいし、教員をやっていてよかったなと思います。2019年に教え始めてすぐに、「自分はこのために生まれてきたんだ」と思いましたよ。

 

特に、学生さんの中には過去にいじめられたり、親との関係に問題があったり、様々な理由から、「他者とともに自分が生きる」ということを実感できていない人がいます。とある学生さんは、「今までは人を信じることができなかったけれど、長先生の授業を通して人を信じるということが少しずつ分かってきた」と言ってくれた。そんな学生さんの声を聞いて、別に自分はカリスマでもヒーリングの力があるわけでもないのに、どうしてそういうことが起きるのかと不思議な気持ちになったんです。考えてみれば、私の力というよりも、いい本があってそれをみんなで共有できる場があると、そういうことが起こるということなんでしょうね。本について語る中で、自分をさらけ出したり相手の話を聞いたりする経験が、学生さんの背中を押しているのだと思います。

 

Q. 長さんのこれから挑戦したいことを教えてください。

 

歴史研究者としては、小澤征爾の評伝を書きたい。評伝とは、評論をまじえた伝記のことで、小澤征爾の人生を当時の国際関係を交えながら書きたいと思っています。さらに大きな野望としては、学校を作りたい。僕の授業のスタイルは、自分でもびっくりするぐらい効果があると思っています。自画自賛ですが(笑)。それを毎年見ていて、何とか規模を大きくしたいと思うんです。今の教育システムの中ではできないと思うので、夢のまた夢の話かもしれないけれど学校を作るしかないかなと思っています。とにかく、どういう形であれ日本の教育を何とかしたいですね。

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僕の基礎は、常に明日は違う自分でいたいということなので、どうなっているか分からない人生がいいです。「10年後はどうなっているか分からない」と言い続けるような人生がいいな。そういうのが粋な人生だと思います。

MONOSASHI編集長・HI合同会社インターン / 松井瞳

interviewer :Sawako Hiramatsu

editor : Hitomi Matsui , Sawako Hiramatsu 

creative designer : Sawako Hiramatsu , Mashiro Takayanagi

character designer : Rei Kanechiku

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