MONOSASHI file06
MONOSASHI file15
Koyomi Taguchi’s
MONOSASHI
直感を信じ続ける
MONOSASHI file15は、田口暦さん。大学では日記をテーマに研究をしています。毎日の中で余裕を持つことが大切だと話す暦さんはどんな生き方をしているのか。田口暦さんだけのMONOSASHIについて教えてもらいました。
Q. 読者の皆様に自己紹介をお願いします!
出身は長野県で、高校生までセロリが日本で一番穫れる村に住んでいました。学校の給食に生セロリが1人1本出てくるような村です。大学は慶應義塾大学のSFCに進学し、今はインタビューで社会調査をするゼミに所属しています。私は日記をテーマに研究していて、これがすごく面白いので、これから「日記人間」になっていこうかと目論んでいるところです。
Q. MONOSASHIの取材では、ゲストにお気に入りの洋服を着てきてもらうプチコーナーを実施していますが、今日はなぜこの衣装を選んだのですか?
この秋色のスカートがすごく好きで、着てきました。古着なんですけど、なんと500円だったのが半額で250円だったスカートなんです。私は古着がすごく好きで、特にビンテージみたいなものではなく、どこからやって来たのかもよく分からない古着が好きです。だから、リサイクルショップや古着屋の掘り出し物を見つける瞬間が超楽しい。このスカート、褒められたらついつい値段を言っちゃいます(笑)
直感って何となくで選ぶことだと思われがちだけど、
これまで信じた直感が正しければ直感そのものがどんどん磨かれていく
Q. 早速ですが、こよみさんだけのモノサシについて教えてください。
これまでの人生で何かを決断するとき、私は直感で決めてきました。例えば、AとBの選択肢があっても、メリット、デメリットを考えるよりも先に、もうどちらかがすでに心の中で決まっているような感覚。大学を決める時も、「うん。もう決まってる。」みたいな。去年は1年間休学してインターンをしていたのですが、その決断も迷いはゼロでした。なので、決断の理由を説明することはできるけれど、正直、全部後付けになってしまう。直感に理由をつけているだけで、それぞれの決断の理由が先にあるわけじゃない。
Q. こよみさんにとっては「直感」が人生のキーワードなんですね。直感について、もう少し詳しく聞かせてください。
最近、直感は磨かれるものだと思っています。直感って何となくで選ぶことだと思われがちだけど、これまで信じた直感が正しければ、直感そのものがどんどん磨かれていく。その小さな積み重ねを磨いていくことが意外と面白いのかもしれないなと思います。例えば、カフェとかご飯屋さんとか居酒屋に行くとき、食べログを見ないで入るとか。お店の雰囲気、入口の照明、メニューボードの感じとかで美味しそうかを判断します。実際は、もっと無意識にやってるけどね(笑)そんな感じで決めて、いいところだった時の「当たり〜!」って感じを積み重ねていくと、直感が当たりやすくなるんです。
Q. 直感を磨くために普段からしていることはありますか?
日常生活でも好きなものをちゃんと集めようと思っています。例えば、Instagramのストーリー。しょうもないけど、「この看板のこのフォントが好き」とか、「この写真のこの影の感じが好き」とか。他にも、家のベッドサイドに、カオスゾーンがあるんです(笑)そこには、少しずつ集めたカオスな小物たちがいて。自分の好きなものを集めたら、直感って磨かれていく。それが、大きな決断をする時にぽんっと出てきたらいいな。
こよみさんのInstagramのストーリーより
自分の好きなものを相手に知ってもらえれば、
それをきっかけに声をかけてもらえることが増える
Q. 好きなものや集めているものを人に発信しているのはなぜですか?
発信すること自体が好きだから見てもらいたいって気持ちもあるけれど、自分の好きなものを相手に知ってもらえれば、それをきっかけに声をかけてもらえることが増える。例えば、私が写真が好きなことを普段から発信していたら、友達がカメラマンをお願いしてくれたりとか。発信することによって、「こよみと言えばあれ」みたいなものを思ってもらえたら嬉しいな、なんて思っちゃったりして。
file14のえみかさんの記事はこよみさんに撮影していただきました!
Q. 自分の好きなものをきっかけに声をかけてもらうことって素敵だと思いました。他に、発信したり集めたりしている物はありますか?
他に発信しているのは、日記の研究のこと。最近は、日記をただ書いてる人じゃなくて、日記を公開してる人にインタビューをしています。下北沢に『月日』っていう日記専門の本屋さんがあって、そこでは一般の人が書いた日記が売られているんです。そういったふうに、Instagramとか、noteとかで日記を公開する人や売る人が最近増えているみたいで、それが面白いなと思って。私は、「日記を公開する人」をテーマにして、インタビューをして、その内容を発信したいなと思っています
Q. 日記のどんなところが好きですか?
「日記」も「好きなもの集め」もそうだけど、一つ一つの小さな要素が積み重なって私自身を形作っていく感覚があるんです。「あなたってどんな人ですか?」と聞かれた時、「これが私です」って便宜上言えるかもしれないけれど、本当はもっと小さなものをすくったもの全部が私だって思っている。好きなものを集めるのも、アルバム作りのイメージ。だから、「あなたってどんな人ですか?」と聞かれた時、アルバムを差し出して「アルバム全部が私です」って答えたい。
Q. 最初に日記に興味を持ったきっかけは?
最初は、自己肯定感の研究をしていました。自分のことを好きって何だろうとか、自己肯定感が上がる教育や取り組みって何だろうを知りたくて研究していました。だけど、テーマが大きすぎることに気がついて、方向転換することにしたんです。
去年、学校でのインターンで国語の先生が、「振り返りの言葉や語彙がその人を形づくっていく」と話していたことが面白いと思いました。これがきっかけで、自分のことを振り返る時間を持つことって大切なのかもしれないと思い、日記をテーマに研究を始めてみたら、のめり込んでしまった感じです。
日記はその場で良し悪しを決めずに保留しておく場所
Q. 日記に対する愛を感じます。こよみさん自身も、実際に日記を書くのですか?
私も日記を書いています。毎日ではなく、書きたい気分の日に書きます。小学校一年生の頃から書き始めて、1年空くこともあるし、半年の時もあるけれど、ずっとゆるく書き続けています。
Q. 日記を書くときに意識していることはありますか?
最近インタビューした人が、「日記では、良い悪いを決めない」って言っていたのが印象的でした。今の状態が良いか悪いかは、後から読むときには分からないこと。だからこそ、今はとりあえず出来事だけを書いておくようにしていると話していました。後で読んだら、それが良かったことかもしれないし、あんまりだったかもしれないけど、日記はその場で良し悪しを決めずに保留しておく場所なのかな。
Q. 保留しておく場所としての日記というのは興味深いです。保留することにはどんな意味があるのでしょうか?
去年、学校でのインターン中、私は「保留する、面白がる」をテーマに過ごしていました。子供の行動や言動って理解できないこともすごくたくさんある。だけど、それをすぐに良い悪いで判断するのではなく、自分が面白がれるかどうかが問われていた気がします。面白がるとか1回保留することはとても体力の要ることで、自分に余裕がないとすぐに良し悪しを決めてしまいがち。それに、保留にすることって宙ぶらりんの状態とも言えるから、気持ち悪いじゃないですか。わかりやすい方が気持ちいい。でも、すぐに白黒を決めて、良い方ばかりに進んでしまったら、考えが偏ってしまうと思っています。宙ぶらりんの状態を面白がり続けるのは、余裕がある時にしかできない。だからこそ、物事を保留するために、余裕を持っておきたいんです。
他の人や組織が与えてくれる「大丈夫」もあるけど、
自分で自分の人生を面白くしていくことで「大丈夫」になりたい
Q. 今はどんな生活をしていますか?
学生団体やインターンもしていないし、今はとても余裕があります。去年はフルタイムでのインターンで忙しく、正直メンタルもしんどくて、余裕がなかったんです。でも、最近は調子がいいんです。おそらく、いい感じに暇なんだと思います。(笑)
Q. 暇なことに気が引けてしまう人も多いですが、昔からこよみさんの中に暇を良しとできるマインドがあったのでしょうか。
大学三年生まではスケジュールがギチギチでした。学生団体で活動したり、休学してインターンしたりして、充実はしていたのですが、何かをしていないと充実しない状態も何か違うなと思って。「何か活動をしてるから充実する」のではなくて、「私ひとりでも自分の人生を面白くしていきたい」と思うようになりました。だから、今年の春からは、自分で行きたいところを決めて、夜行バスやレンタカーで行ってみたりしています。しまなみ海道を自転車で走ったり、九州を車で縦断したり、隠岐島の離島に行ったりもしました。他の人や組織が与えてくれる「大丈夫」もあるけど、自分で自分の人生を面白くしていくことで「大丈夫」になりたいんです。
猫を拾う
Q. なりたい自分はいますか?
ちょっとつまらないな、よくわからないなと感じた時に、「お、面白くなってきたぞ」と口に出すと本当に面白くなってくる気がします。嫌なことや曖昧なものを「面白いぞ」って言っておく。そんな人になりたいです。
これって今日の服にも関係しているのかも(笑)みんなが絶対良いって言ってるブランドではなくて、自分が好きな「よくわかんないもの」を見つけたい。
Q. なりたい自分に対する回答が曖昧なところがこよみさんらしいと思いました。私なら、やりたいことについて頑張って話す気がします。やりたいことがないことに対してどう考えていますか。
自分のやりたいことで活躍している人を見て、何もしていない自分を良くないなと思う必要はないと思います。私はそれを「猫を拾う」感じじゃないかなと思ってる。
Q. 「猫を拾う」?
社会学者の岸政彦さんが、沖縄出身ではないのに沖縄の研究をする理由について、「沖縄の人の語りを聞いてしまったからだよ。それを聞いてしまった以上、自分が残さないと消えてしまうと思って、研究を始めることにした」と言っていて。それって「猫を拾っちゃった感じに似てるな」と思いました。猫は拾っちゃったら飼うしかないじゃないですか。だから、私に人生をかけてやりたいことがないのは、まだ猫を拾っていないからなんだと思うようにしてます。何歳か分からないけれど、私も猫を拾っちゃうかもしれないし、拾わなかったら、猫を拾った人について行けばいい。だから、やりたいことがないことに対してあまり焦っていません。
Q. こよみさんにとっての「直感」とは?
直感を積み重ねていくことでどちらが面白そうな匂いがするかが分かるようになる感覚を、直感とか第六感と呼んでいると思っています。そのためには、経験を積み重ねて直感を磨いていく必要があると思います。そういう意味で、直感って「やってみる」ことなのかもしれない。食べログを見ないで美味しいご飯やさんを見つける話にも繋がるけど、絶対に良いかどうか分からないことを「やってみる」ことで初めて直感というものは磨かれるのだと思います。
MONOSASHI編集長・HI合同会社インターン / 松井瞳
interviewer : Sawako Hiramatsu , Mika Kokuryo
editor : Hitomi Matsui , Ryoma Iizuka
photographer : Emika Furuhata
creative designer : Sawako Hiramatsu , Mashiro Takayanagi
character designer : Rei Kanechiku